少しずつ日が長くなっている、と言ってもまだまだ闇が落ちるのは早い。
校舎の中にいるのに息が白い。鉄筋コンクリートで出来ているので、熱が逃げるのが早いのかもしれない。
彰は薄暗い廊下を、電気も点けずに歩いている。
暗闇は怖くない。
幽霊だとか信じていない為、慣れた場所だと電気も点けずに平気で歩く癖がある。電器を点けたり消したりするのが面倒だというのが第一の理由だ。
彰は迷うことなく、並ぶ扉の一つを開ける。
重い扉が開くと、少し温かさを感じた。
廊下とそう違いが無い鉄筋コンクリート。それでも昼間はここに沢山の人間がいて、その熱量が篭っていたのだ。
まだその温もりが消えずにいるのかもしれない。
既に日の差し込まない窓際の席に、一人うつ伏せに座っている。
――――やっぱりいた。
遅くなりそうなら先に帰れって言っていたのに。生徒会が無い日は俺は先に帰っているから、一人で帰ることに慣れていない訳ではないだろう。
一人で帰れない、っと言うほど自分達はもう子供じゃない。
「恵胡?」
声を掛けるが動く気配は無い。
近付き、体を揺すろうとするが………。
「へへへへっ……」
どこかだらしない寝言。によによと幸せそうに笑う少年。
伸ばした手を引っ込め、腕に付けた時計を覗く。
5:48。
「後12分だけな」
疲れた時は直ぐに与える休憩は、少量なのに大きな効果を発揮する。
もう少しだけ寝かせていてもいいかもしれない。風邪を引かない程度に。
子供が帰る時間を知らせる歌が流れるまで、もう少し心地の良い眠りの中にいていいよ。
彰は恵胡の座っている席の前に座り、外を眺める。
「へへっ、うへへ………」
また聞こえる笑い声。
「一体どんな夢見てるんだ??」
動きを止めない恵胡の頬が面白くてつんつんと突付く。
外を眺めるより、後12分こちらを眺める方が面白そうだ。
彰は頬杖をつき、幸せそうに笑う少年を見つめていた。
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