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5月6日(日)
ただ一言が俺を喜ばせる。
『会いたい』
風呂から上がったら残っていた着信履歴にかけなおすと、最初のコールを待たずに恵胡が出た。
きつい合宿を終えてきたとは思えない大きな声に、携帯を持つ手を伸ばしたのは俺の所為じゃない。
何してた、きつかった、鬼コーチ…………いつもとかわらないテーションの恵胡が急に声を低くして言った。
俺もと続けたら喜んだのかもしれないが、ついつい、嬉しさから俺は笑ってしまった。
電話越しでもわかる、恵胡の拗ねた様子。
唇を尖らせてるのかもしれない、勢い良くベッドにダイブしたかもしれない。
容易に想像できるその姿に、また嬉しくなって笑った。
「寂しかった」
そう言ってやったら、急に黙り込んだ。
恵胡は真っ赤になってるのかもしれない。
俺も負けじと真っ赤だけど。
『今すぐ会いたい』
「…………ばぁか。もう終電ないぞ。我慢しろ」
『う゛~』
俺だって会いたいさ。
今すぐ会って、馬鹿と言って一発殴ってやる。俊から借りた本についても問い質してやる。
そして、キスの一つくらい許してやってもいい。
「明日会えるだろ…………俺だって会いたいんだから我慢しろ」
下手したら、チャリを飛ばしてここまで来そうな恵胡に釘を刺しておく。
「取り合えず、今は電話を楽しまないか?」
会えないのなら、その分沢山話をしたい。
君の存在を感じていたい。その声を聞いていたい。
知らない間に身に付いた自分の乙女思考に苦笑しながらも、合宿中の様子を話す恵胡の声に耳を傾けていた。
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