「げ……俊手加減しろよなぁ~もぉっ!」
コントローラーを投げつけようとした恵胡を、持ち主である平良が押させつける。
特に決めた訳ではないが、気付いたらみんなが平良の家に集まっていた土曜日の午後。
ちょうど俺・俊・恵胡の家から同じくらいの距離にあり、チャリで行けて、基本的に両親は昼間いない一戸建ての平良の家は溜まり場としては最適だった。一人っ子である為、豊富に与えられたゲーム機もその一因だ。
「ったく、恵胡は弱い癖に負けたらカッとなる。させねぇぞ」
俊が笑いながら電源を切る。恵胡はまだどこか拗ねている。
俺は特にゲームに魅力を感じないので、いつも隅で平良の漫画本を読んでいた。
「やべぇ~平良暇」
「俺は暇じゃない。人間だ。人ん家に押しかけててその台詞かよ。家主を楽しませるサービス心があってもいいはずだぞ」
「よっしゃ!!じゃぁ俊君が皆様に知識の伝授をいたしましょうじゃないか!」
「他所でやれよ。どうせ俊の話はY談しかないだろうが」
漫画を投げつけると、俊に当たる前に平良がキャッチした。
「俺のだぞ、大事に扱えよなぁ~」
いつもこの部屋では、平良はぼやきばかり零している。
そんなやり取りが楽しい。
「ちぇっ………」
興味がない年代という訳ではない。そういう知識の交換や共感を得たくはあるが………なんせ恵胡もいる。彼がそういう話題にまだ興味があるとは思えなかった。
「なぁ………」
拗ねていたはずの恵胡が口を開く。
「そのさぁ………」
先ほどまでの違う雰囲気に、俊の瞳が爛々と輝く。平良はちょっと驚いているようだ。
「なになに?恵胡。俺に相談???」
平良も俊も俺と同じように思っていたのか、今まで4人でY談なんかはしたことがない。だが、今回はその遠慮をしていた人物が興味があるような重々しい雰囲気で話しかけてきたのだ。
「あのさ………ちょっと気になる奴がいるんだよね。ふっと気付いたらそいつのこと考えてるし、それに、そいつをおかずにしてるんだよな……これってどういうことだと思う??」
俊が一つ口笛を吹く。
もちろん、それなにの年齢なのだから当たり前だが、恵胡が自慰をしていたことに驚いた。
「簡単じゃん。恵胡はそいつのこと好きなんだろ?」
「えっ!!好きって……好きかもしれねぇけどさ……えっと」
恵胡は照れたようにもじもじと指を弄り回す。
先ほどの告白よりも、俊の一言で照れる恵胡が可愛くてついつい笑ってしまった。
「なっ!彰なんで笑うんだよぉ!!」
「いや、恵胡告ってみれば??」
「お、彰名案!!けぇ~いぃ~ごぉ~相手は誰だ!!」
「そうだな、何事も伝えないと伝わらないからなぁ~よし、恵胡。協力するぞ!」
クラスのマスコット的存在である恵胡の恋。
小さな弟が相談してくれたみたいで、どこかこそばゆくて嬉しい。
「いっ……いらない!!協力なんていらないからねっ!」
真っ赤になりながら、恵胡はそっぽを向く。
結局夕方帰るまで、俊・平良・俺の誰誰攻撃に拗ねつつも恵胡は誰だかを明かさなかった。
そのことはちょっと寂しいのだが、時間がくれば言ってくれるだろう。頬を膨らまして怒りながら自転車を漕ぐ恵胡の後姿を見て、そう思った。
この記事にトラックバックする: |