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5月5日(土)
 
飛び起きた室内はまだ薄暗く、目覚めには早いことを教えてくれた。
それでも動悸の激しい心臓に、服を強く掴む。
「馬鹿俊…………」
勿論、八つ当たりだ。
まだ肌寒い室内に漏れる俺の吐息は、とても熱い。
風邪を引いた時に感じる、体の熱さ。それに似ている。
握っていた拳から力を緩めると、パジャマ代わりにしていたパーカーのよれが戻る。
その瞬間に触れる肌の感触に、思わず肩が揺れる。
「ちっ」
舌打ちを零し、きつく目を瞑る。
昨日俊に見せてもらった本が原因のはずだ。
 
『彰』
 
暗闇の落ちた視界で、先ほどの声がリフレインしている。
熱を帯び、切羽詰った声。それでも俺の脳味噌を溶かしてしまいそうなほどどこまでも甘い声。
夢だ、と言い聞かせたところで、感じた熱や音は現実のもののように自分に記憶されている。
 
『ごめん』
 
そう言った恵胡に抵抗しようとしても、夢の中の俺は自由に手を動かす事も出来なかった。
やめろと言ったのかもしれないが、全くもって覚えていない。
ただ……熱だけが未だ俺の体に残っている。
「はぁ…………」
吐き出した熱い吐息。
シーツの冷たさが、心地よかった。
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