恵胡家の近くにある塾へ通う為、駅から俺と俊は自転車を走らせる。
恵胡は部活があるので塾などには通っていない。平良とは基本的な生活範囲が違うから自然と違う塾になる。
アップダウンの少ない土地だが、駅に向かう道で一箇所だけ自転車泣かせの坂がある。
二人とも無言で登った後は、風を切るように落ちていく。
夏は気持ちがいいのだが、冬は肌を切るような冷たい風が流れるので辛い。
降りきった辺りから、道路の両側に並木が現れる。寒さの所為か、全く葉がついていない。寂しい風景だ。
「ここってさ、なんの木が植えられてるんだっけ?」
「へっ?彰知んねぇの??春も通ってるだろ」
確かに年中通っているのだが、興味がない所為か検討もつかない。
「気がけてないからな」
「物知り彰でも知んねぇことあるんだなぁ~桜だよ、桜」
「桜……だったのか」
目立つ花を咲かせていながら、俺は全く気付いていなかったのだ。
あの時どれだけ回りを気掛けていなかったのかを思い知らされる。
「これだけあれば綺麗だろうな」
「そりゃな。名物だしなぁ~恵胡なんてすごいはしゃぎようだったぞ」
くっくっくっと笑う俊の言葉に、容易に恵胡の姿が想像でき釣られて笑う。
「わかるわかる。しっぽ振ってる犬みたいに走り回りそうだな」
「上ばっか見てるからこけるんだよな、あいつ。長距離選手のくせしてさ」
嘘だろっと否定できない話に、俺はもう一つ笑う。
「でも昨日の恵胡の話はびっくりだったよな」
昨日の平良の家での恵胡の告白。俺らにはかなりのインパクトを与えた。
「確かに。でも恵胡なら微笑ましい男女交際を実行してくれそうだよな」
真っ赤になりながらなりながら告白をする恵胡。小さく愛らしい女子を勝手に想像してしまう。二人して真っ赤になりながら、壊れ物を扱うように接する恵胡。安易に想像できた。
「手を繋ぐまでに3ヵ月、キスまでに半年っとかか?」
「そっそ。どいつかなぁ~恵胡の恋のお相手」
「わかんねぇなぁ。あいつあれ以上しゃべんなかったしさ。でも俺は恵胡は結構早いと思うぞ?」
びっくりして自転車が左右に揺れる。
「お前が言うと妙に説得力があるからやめてくれよな。恵胡だぞ?お前と一緒にするなよ」
「1週間以内がもっとうなんでねぇ~でも恵胡さ、その好きな奴で抜いてるんだぞ?案外すぐ手出すんじゃねぇか?」
少し視線を送ると、俊は肩を竦めてみせた。
「案外彰の方が初心(ウブ)??」
「なっ!!!」
「ま、春までに決着つくかねぇ~」
昨日あの会話の後、時々ふっと意識を巡らせる恵胡がいた。
“好き”という感情として意識していなかったのかもしれない。俊の言葉で恋愛感情だと気付いた恵胡は、どれくらい思案して行動に移すだろうか?その前に相談してくれるだろうか?
「でも、彰にも見せたいよなぁ~」
「ん?」
「犬みたいにはしゃぐ恵胡の姿」
散る花びらに飛びつく恵胡。嬉しそうに笑うんだろうな。
「そうだな。始業式まではまだ返事を貰わないで欲しいな」
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