7.事情

今日の体育は選択だ。各人がやりたい競技を選んで、それぞれで行う。
教師の目は全体に満遍なく広がり、一つの競技に掛けられる指導時間も減る。簡単に言えば、教師の手を抜く時間だ。また、選択はクラスも２クラス合同でするので、人数も多い。
運動場ではフットサルが、第１体育館ではバスケとバレー、第２体育館ではバトミントンや卓球といった個人競技が行われていた。寒い中、態々外の競技にしなくても………と俺らはいつもバスケを選ぶ。
「うへぇ～きっちぃ」
今日のバスケは２０人の４チーム。１コートしかないので、２チームずつが戦う。
「お疲れ」
恵胡と平良が同じチームだ。寒いはずなのに２人は汗をかいていた。
俺と俊のチームは２回連続の見学だ。
「もぉ駄目ぇ～～」
隣に座った恵胡が、俺の膝に雪崩こんでくる。
「寝るっ！！もぉ、ぐぅすか寝てやるんだから！」
駄々をこねる子供のように、恵胡は肢体の力を抜く。
「恵胡動きすぎなんだよ。馬鹿みたいにボール追いすぎｗ」
仰向けの恵胡を、俊がデコピンをする。
「確かに恵胡はボールを追う犬だよな」
平良も笑うと、恵胡が頬を膨らませる。
「ま、それはいいとして、恵胡～～お前の好きな奴って誰だよ？」
昨日も散々俊の口から出てきた質問だ。
「俊、またそれかよ～お前に教えたら一気に広がるだろ。嫌だっつぅのぉ～」
「えぇ～」
何度交されても、変わらない２人のやりとり。
「それに、そろそろしつこい」
恵胡でなくとも、平良も俺も思っていたことだ。逆に恵胡が不審を抱き、しゃべらなくなるのではないかという懸念を抱く。
「そうだぞ、俊。恵胡の気持ちも察してやれよ」
平良の言葉に、今度は俊が拗ねる。
「恵胡も、俊は寂しいんだよ。恵胡から教えてもらえねぇから。寂しがり屋の兎ちゃん、俊君だと思って大目に見てやれよ」
エロたれ目な俊に耳が生えている姿を想像して、思わず吹いてしまった。
「ちょっと平良ぁ～兎ちゃんってのは、可愛い女の子を表す時に使えよなぁ～」
「あぁ、俊なら狼か？」
「彰までぇ～俺ちゃん可哀相」
科を作る俊が可笑しくて、俺と平良は笑う。

「ちゃんと言うから」

俺の膝から恵胡が勢い良く体を起こし、真剣な眼差しで３人を見ている。
「ちゃんと時期が来たら言うから」
笑っていた俺らは、変な格好のまま固まってしまった。３人を黙らせ止らせるくらい、恵胡は真剣そのものであった。
「なんか事情があるのか？」
俯いたまま、恵胡の首が微かに下がる。
「ってか、そこまで真剣に悩むなよ！ついついからかいたくなるのが、俺の性分なんだからさ」
俊がアタックを食らわせると、小さな恵胡は後ろに尻餅を着いた。
「そうそう、そんなに俺らは恵胡のことわかってない存在じゃないって自負してるんだけどな？」
「俊は子供だからな。大丈夫、皆恵胡のこと待ってるから」
不思議なものを見るように大きな瞳が数回瞬きをすると、花開く瞬間のように恵胡は綺麗に笑った。
「うんっ！！」
「しぃかしぃ～、彰。俺が子供ってどういうことだ？？案外渦中にいないけど、彰はどうなんだよ？」
「へっ？」
恵胡の首に技をかけながら、俊が話題を振ってきた。にやりっと含みのある笑みを浮かべている。
「俺は彼女いるだろ？平良はまだ友達だけど狙ってる女いるだろ？恵胡は秘密だけど好きな奴いるし。じゃ、彰お前は？？」
やばいっと話題を反らす方法を考えるが、既に３人のターゲットは俺に移っていた。
してやったりっと笑う俊、新しい発見をした子供のような平良、ターゲットが移ったことで水を得た魚のように爛々と瞳を輝かせる恵胡。
「……………」
「あぁ～きぃ～らぁ～、お前はどうなんだっあぁぁぁぁ！」
飛び掛ってくる俊と恵胡を避け、コートに走る。
「俊、次俺らだぞ！」
「上手く逃げやがってっ！」
「えぇ～彰ずりぃ～俊、コート内でも聞き出せっ！」
「無茶すると怪我するぞ。次の休憩でいいぞ、俊」
勝手なことを言うギャラリーと不満そうなチームメートに溜め息を付き、俺はコートの真ん中に整列をした。