お題に挑戦しながら日々精進用
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5月8日(火)
「浦田先輩」
もう5月、まだ5月。
近年の異常気象は、気候の安定を奪った。
何月だから、と洋服を選ぶのは自殺行為だ。
現に、今は長袖のシャツでいるのには暑いと感じるほどだ。
校舎の木陰になる場所で、絵に描いたような後輩は運動場を眺めていた。
体育教諭に頼まれていたアンケートを提出する為に、何故か体育館の脇にある倉庫を改造して作られた体育教官室へ行く途中。
職員室にいろよな、と心の中で文句を垂れたのは、きっとこの気候の所為だ。
「坂槻か、どうした?」
自分の隣を叩く坂槻の姿が様になっており、俺の中で坂槻タラシ疑惑が浮かぶ。
俊もよく、女子から勘違いされそうな行動をする。
別に何時に持って来いだと言われた訳ではない。
選挙の準備も万全なので、少しだけと思いその隣に腰掛けた。
「なにしてるんだ?」
「ぼぉっとしてました」
綺麗に笑うそいつは、やっぱり小国先輩の血縁者なんだと思わせられる。
「運動部の練習風景見てると、全員同じように見えて実は違うんです。同じことをしていても、1身に付いてる奴と、10身に付いてる奴って動きとか表情とか見てるとわかるんです。それが面白くてついつい観察してしまう」
隣にいるのに、坂槻の視線は運動場を向いたままだ。
そう言われて改めて練習風景に目をやると、少しだけ坂槻の言いたい事がわかる気がした。
本心から練習を楽しんでる者、どこか逃げたいと思いながら取り組む者、真面目に見えて手を抜いている者。
「やっぱり10身に付けちゃう奴が頭角を現していく。面白いですよ?」
「坂槻はスポーツしねぇの?」
「俺ですか?嫌いじゃないんですが…………体、そう強くないんですよね」
そう言うと、傍らに置いてあるペットボトルに口を寄せた。
青いラベルが鮮やかなミネラルウォーター。
身体つきは良いので、自由に動ければさぞ運動神経はいいのだろう。
じっと見ていた所為か、坂槻がペットボトルをこちらに傾けてみせた。
「先輩、喉渇いてるんですか?」
「……いや、水買うんだって思って」
日本の水は、他国に比べたら綺麗だ。酒より水が高い地域がある位なのに、水を買うということがこの日本で行われていることが俺には不思議でたまらない。
「大事に育てられた所為でしょうね。水道水、美味しくないんです」
あぁ、やっぱり。
人の好くような笑顔を見せる坂槻だけど、時々やけに冷めた顔をする。
自虐ではない、自分に対して冷めた言い方。
曖昧に返事して、体育教官室を目指すという旨を伝え隣を離れる。
その時に見せた坂槻の笑顔は、いつもの人の好くそれだった。PR
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