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5月3日(木・祝)
 
「はじめまして!私服部【ハットリ】麻衣です。こっちが友達の林順【ハヤシジュン】。今日はよろしくね」
「あ、はぁ。浦田彰です」
「どうも、荒尾平良です」
「………よろしくお願いします」
茶色に染めたミディアムヘアーの大きな目をした少女が、噂の平良の思い人らしい。
今流行の脂ぎった唇をしていないところは好評価ではある。
少女の一歩後ろに隠れるように黒い長い髪をした少女がいる。
眼鏡をして少し俯いた表情が、彼女の性格を現しているようだ。
「行こうか」
元気よく歩き出す服部さんのスカートが、綺麗に風を含みふんわりと舞う。
真っ白なプリーツの入ったそれから伸びる素足は、健康的な色をしており本来は活発に動き回る子であろうことが窺えた。
 
駅で平良に言われた第一声は、彰って勿体無いよな。とのこと。
深緑色のロンティーに黒のダボっとした綿パン。
普段からもっと洒落た格好をしろと俊に言われているが、興味が無いのだからしょうがない。
昨日の晩、恵胡との電話の最中に入っていたメールは、Wデートのお誘い。
断ろうかと思って電話をかけた。
俺じゃなくてフリーな俊とかにすればいいだろうと提案した時に漏れた平良の本音に、つい引き受けてしまった。
『だって……麻衣ちゃんがあいつに惚れたら困るだろ……』
普段はあまり見せない、拗ねたような言い方。
だからといって、何も事情を知らない奴には頼めない。
恵胡は部活の合宿中。
消去法で俺しかいないという訳だ。
 
流行のアクション映画を見て、昼ごはんを平良の奢り(今日一日付き合う条件だ)でお洒落なカフェで食べ、ウィンドウショッピングをしていると自然と男女二組に分かれて歩いていた。
前を行く二人は、どう見てもカップルそのもので、俺と林さんはたいした会話もなくその数歩後ろを付いていく。
クスリと小さな笑い声がして隣を振り向くと、林さんが口に手を当てて期待を裏切らない笑い方をしていた。
「お互い……だしに使われただけだよね」
「……ぷっ、林さんも?」
「荒尾君が好きとか相談受けた事ないけど、どうしようか悩んでるって。でも……」
「ですね。どう見ても俺達必要ないよな」
「くすくす、私もそう思う」
ほんのりと染まったピンクの頬や、友達を思う瞳。
控えめだけど、決して気がきかないというわけではなく、気付かれなくていいと思っている善意。
工業系の学校にいるせいか、殆ど触れ合う機会の無いので気付かなかったが、確かに女の子って可愛いなって思える一瞬だ。
勿論、疾しい意味など無いので、心の中で恵胡に謝る事はしない。
 
林さんの瞳の先を追うと、今だ羽化したことに気付かない二人が楽しそうに指を絡めていた。



***************
100話いきました。そろそろサイトに校正してあげようかなぁ・・・。
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