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4月30日(月・祝)
桜はもう既に散ってしまっている。
暖かくなった所為で、木々が元気を取り戻し緑を濃くし始めている。
「彰、眠いなら寝ていいからね」
助手席に座る母さんがガムを一枚差し出しながらこちらを向いた。
眠気すっきりな黒いパッケージのそれは、眠りを促しているように思えないのだが母さんに悪意はない。
そういう人だ。
いつもなら二人で座っていた後ろの席が広く感じる。
「別に……」
そっけない俺の態度を気に留めた様子も無く、母さんは前を向きなおした。
高校生にもなって……と思ったが、兄貴が出て行ってからどこか元気のない母さんを前に断ることはできなかった。
名前も覚えてない従姉妹の子供なんて、家族としての実感はほぼ無い。
それでも俺が一緒にいることで嬉しそうな母さんを見て、まぁいいかと思ってしまった。
先ほどからずっと、木々が窓の外を流れていく。
遠くに見える木、近くに見える木、同じ太さの同じ種類の同じ高さの…………自然だと思っていた風景が酷く不自然なものだと帰り道で気付いた。
「全部一緒だ……」
「当たり前でしょう。ここらへん全部植林よ」
独り言のつもりだったのに、母さんが俺の言葉を拾って驚いた。
エンジン音に掻き消されそうなほど小さな声。恥ずかしいのか……嬉しいのか。昔の俺なら恥ずかしくて冷たい言葉も吐いたかもしれないけど……恥ずかしい嬉しさというやつを教えた奴がいたから。
「全部?」
「そうよ、私が生まれる前位かしら、急成長で禿山になったこの山に大規模な植林計画が持ち上がったのよ。将来を見越して、材木になる杉を沢山植えたらしいわよ」
「あぁ、じいさんから聞いたことがある。当時林業を生業としていたじいさんは反対したらしい。一種の木を増やす事は森の生態系を崩すってな」
「……へぇ」
父さんのじいさん、つまりは曽祖父にあたる人間が林業をしていたなんて始めてしったし、いつも無口な父さんが知識を披露しているのも珍しかった。
「そうなの、いいことばかりだと思うのは素人考えだったのねぇ」
考えるようにトーンの落ちる母親を見て、それで上機嫌になる父親がいた。
あぁ、やっぱりうちは亭主関白に見せかけた嚊天下だ。
この前見たボランティアのドキュメンタリーで同じような内容を言ってなかったか?

思わず緩んでしまいそうになる表情を抑える為に、俺はまた不自然に並ぶ木々を眺めた。

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