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4月28日(土)
 
恵胡は強いと思う。
マスコットのような存在で、陽気で人から好かれる恵胡のことを、守ってあげなくてはいけない存在だと、自分の方が強いのだと認識していた以前の自分が恥ずかしい。
それどころか、自分は何と弱い存在なのだろうか。
 
揺れた恵胡の瞳に、縋るように吐いた台詞。
あぁ、自分、最低じゃんと何処か冷静に突っ込んでいた。
 
『なぁ、明日泊まっていい?』
 
弱い自分に失望して、恵胡が離れていくような気がしたんだ。
変に焦って、馬鹿みたいにパニックになって、どうすれば恵胡が自分から離れていかないかばかり考えていた。
先日、恵胡と二人っきりなんて危ないと言っておきながらこの台詞。いいよ、と言った恵胡の瞳に、いつも二人になった時に篭る欲情がなくて、さらにそれが俺を焦らせた。
 
本当に馬鹿みたいだ。
 
目の前にある青いパーカーを握る。
暖かくなっていたのに、ここ一週間朝夕は酷く冷える。
温もりを求めて擦り寄ると、無意識なのか力強く抱き込まれる。
恵胡は馬鹿みたいに焦っていた俺に気付いてたんだ。
 
『俺、彰がいればどうでもいいよ』
 
そう言って、恵胡はただ抱き締めるだけだった。
恵胡の両親も妹もいなく、部屋に入ったら以前あったポスターもなくなっていた。
いつもと違い、ぎこちなくなってしまうのは俺の所為。
二人で恵胡の母親が作ったカレーを食べて、風呂に入って、テレビを見て……それでも消えない違和感。
本当に馬鹿みたいに、俺は恵胡が離れるという脅迫概念に追われていた。
自分からキスを仕掛け、抱きついたはずなのに、恵胡はただ微笑んで抱き締めるだけだった。
自分よりほんのちょっとだけ小さな体で、俺の背中を撫でる手。
俺はあやされる赤ん坊みたいに、ただ恵胡の肩に顔を埋めていた。
 
『あと、俊と平良がいて、理解してくれてて、十分に幸せだよ』
 
「ほんと、俺、馬鹿だよな」
 
ベットに置いてある時計を見ると、まだ午前六時。
起きるには早過ぎる。
昨日からお互いの隙間を埋めるように抱き締めあった。
まるで不安を吸い上げるように、空いた部分を埋めるように……その優しさが嬉しくて。
 
「すげぇ、好きなんだ」
 
初めて言った好きは聞こえなくていい。
もっと強くなってから、きちんと聞いて欲しい。
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