雨の日は好きではない。どんなに気候が悪かろうと、屋上で過ごす時間が好きだから。
「教室でさ、飯食うと匂い篭るよな。あれって中にいると気付かないけど外から入ると相当気にならねぇ?」
窓際の俊の席周辺を占拠して、先ほどまで俺達は弁当を食べていた。平良は隣の席に座り、俺は窓に体重を預けている。恵胡は俊の膝の上に座り、空になったコーヒー牛乳の紙パックを加えている。
「げげぇ~雨降ってんから窓開けれねぇし。俺便所行きたくなくなった~」
紙パックを上下に揺らしている。捨ててこればよいものを……。
「さっきまで自分達が食べていたものなんだけど、混じった匂いってなんか微妙に発酵した匂いだよな」
「そそ、なんか萎えるよな」
「その前に教室で興奮すんな」
平良の厳しい突込みが入る。
「げげぇ~俺危うい??」
恵胡が立ち上がろうとするところを、俊は素早く腰を掴んで捕まえる。
「げへへへ~逃がさねぇぞぉ」
いつものアホらしいやり取りに、平良と目を合わせて大きな溜め息を付く。
「はいはい~興奮で素朴な疑問」
「お前の場合は、素朴じゃない気がする」
確かにその通りだ。
「ひでぇ~、で、どんな時興奮する??」
「そら見ろ」
平良が大袈裟に肩を竦める。
俺も目下の頭を叩いてやろうかと思った。一応ほぼ男子校とはいえ教室内に片手ほどの女子はいるのだ。いつもの屋上じゃないし、恥を知れ。
先日の恵胡の爆弾発言以来、下ネタ系が頻繁に出てくるようになった。興味のある年代だからしかたのないことだろうが、俊はセーブするつもりはないらしい。
「俺は自分の欲望を恥ずかしがりながら隠す姿には萌えるな~はい、次は平良ね」
「おい、俺は言わないぞ」
「ルール違反~」
恵胡の野次が飛ぶ。日曜に交した俊との会話を思い出す。案外恵胡はいける口なのかもしれない。
「ちぇっ。そうだな……目が合った時に、笑いかけてくれる姿とか?」
「爽やかだなぁ~で、彰はあるのか??」
「ない」
コンマ1秒も待たずに答える。そんなに怨めしそうな目で見られても困る。
「グラビアのポーズでもいいぞ」
俊がけらけらと笑うので、今度こそ頭に拳を落としてやった。
「彰は宿題ねぇ~。俺はね、名前呼ばれた時かな?なんかこう、ゾクゾクってくるんだよねぇ~」
「お、恵胡。結構通だな」
俊が素直に感心している。平良もちょっと共感しているようだ。
「名前呼ばれるってそんなにいいもんなのか?恵胡」
「あぁ~彰にはわかんねぇよなぁ~」
俊が大口開けてからかってくるので、口に拳を入れようとしたら思いっきり歯を閉じられた。
「うんっ!」
こちらを見上げながら恵胡は強く断言した。
いつもの腕白さを感じさせる笑顔ではなく、どこか穏やかな笑顔で。
細められた大きな瞳に、何故だか少しドキリとした。
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